それからしばらくは、平穏な日々が続いた。
サークルのみんなで集まって大学生活を謳歌していた。
でも俺は密かに充への想いを抱えていた。
これまで、俺は自分がゲイであると伝えると、関係が崩れてしまうことを何度か経験していた。
中学生の頃に想いを寄せていた相手には、告白したのちすぐに関係が崩れてしまった。
それまでは良好だった関係も告白を機に崩れてしまうのだ。
俺はこれが自分がゲイだからだと思っていた。
もちろん今となっては男女の関係でも同じことが起きるとわかっていたが、当時は自分でもゲイに偏見を抱いていたのだ。
俺が大好きな人と長く一緒にいる方法は自分の想いを伝えないことだった。
でもそれがどうしてもできなかったのだ。
充への告白
ある日サークルのみんなと遊んだあと、俺は充の部屋に泊まることになった。
俺の部屋は充の家のすぐ下で、帰ろうと思えば帰ることができた。
それに充はいつも俺を部屋に泊めないだが、その日はなぜか泊めてくれたのだ。
俺は充の隣で眠ることになった。
その日はなぜか充が俺を隣に寝させてくれたのだ。
俺はなかなか眠ることができず、隣にいる充のことを考えてドキドキしてた。
気づくとどうしてか充の家の床に智樹が寝ていた。
智樹は何も言わずに充の家へやってきて、床で寝ていたのかもしれない。
俺はどうして智樹がいるのか疑問に思ったが、あまり深く考えることはなかった。
その頃頭のどこかで智樹が充のことを好きなのではないかと思うこともあったが、充は智樹を好きじゃないとわかっていた。
俺と充はベッドで一緒に寝て、智樹は床に寝ていたのだ。
次の日から充の態度が少し変わった。
距離を置かれているような感じになった。
俺は自分がゲイであることがバレてしまったのかと思った。
だからこそ俺は苦しくなった。
それが原因で、俺は普段よりわがままになっていたのかもしれない。
俺は充が帰って欲しいと言っても帰らないこともあった。
充はそれに泣いてしまったこともある。
充はどう考えても俺のことなど好きではなかったのだ。
でも俺は強引にアタックした。
周りの反応
しばらくしてからサークルのみんなの反応が変わった。
いつもより距離を置いているような感じがした。
誰もが自分を避けているような感じを受けたのだ。
違和感を感じた俺は、なんだか溜まり場にいるのが億劫になった。
それから俺は自分からサークルのみんなとは距離を置くようになった。
充が俺がゲイだと言ったのかもしれない。
2008年頃、まだ同性愛を差別する風潮があったのかもしれない。
少なくとも俺はそんな風に感じていた。
今流行りのゲイ用出会い系のアプリもなく、ゲイだけが集まる方法もなかったのだ。
東京なら二丁目があり、寂しくなったらゲイ同士で集まることもできたかもしれない。
でも田舎ではゲイはビクビクしながら生活していたのだ。
アプリがあれば、近くの人がゲイかどうかは一発で判断できる。
そのアプリはゲイの中では有名でほとんどの人が登録しているからだ。
気になった人がゲイかどうかはそのアプリを見ればすぐにわかるのだ。
しかし当時はそんなことはできなかった。
皆、勘を頼りに探り合っていたのだ。
だからこそ失敗をし勘違いされ噂になることもあったかもしれない。
俺は充が「正志がゲイであること」を言いふらしたのではないかと考えていた。
充とのケンカ
充はしばらくして、家を引っ越すことになった。
俺がゲイだということ知って気持ち悪がったのかもしれない。
当時の俺は自分の感情を抑えることができず、悲しみを充に打ち明けた。
しかし充は俺に冷たく当たった。
どうしても引越しを阻止しようとする俺に反抗し、冷たい目で俺を見たのだ。
雨の日だった。
俺たちは殴り合いのケンカをした。
その日から俺と充は一度も口をきいていない。
当然だと思った。
ケンカをしたんだ。
関係がギクシャクしても仕方がない。
それに相手は女が好きで、俺はゲイ。
俺が充のことが好きだと、充は気づいていたんだろう。
だから俺は嫌われてしまったのだ。
大学生で恋が下手だった俺は、当時の自分を振り返っても恥ずかしいことをたくさんしていた。
周りも皆大学生だ。
恋をしたら誰でもおかしくなることを、認められない人もたくさんいた。
俺は恋に狂い、おかしくなり、周りの人からも敬遠されたのだ。
1人になった
俺はそれから1人になった。
勉強を一緒にしてくれる人もなくなり、生活も不真面目になり、スレスレの成績で3年を迎えていた。
俺は自ら人目を避け、学校に通うようになっていた。
どの授業を受けても1人だった。
3年の後半には皆単位を取り、あまり学校に来なくなっていたため、サークルの仲間とも会う機会はなかった。
充も俺と同じような成績だったはずだが、充は俺をうまく避けていたんだろう。
俺たちは一度も会うことがなかった。
ある日俺は孤独に耐えられなくなり、親に自分がゲイであることを伝えた。
次の日母親と姉が急いで俺の家にやってきた。
伊勢と大阪でだいぶ離れていたが、心配になった家族は俺の様子を見にきたのだ。
当時同性愛者のドラマが流行っていて、母親はそれに影響されたんだろうと言っていたが、世間はそんなもんなんだと俺は悲しくなった。
同性愛は障害で、意識して省けるものでもなければ、頑張ってなれるものでもないはずだ。
次の週から俺は週末はちょくちょく実家に帰るようになった。
少しは孤独から解放されたが、俺の大学生活の半分は苦い思い出になったのだ。
その後も俺はたくさん恋をした。
東京の就職先ではまたゲイではない男性に恋をして、関係を崩してしまった。
その後はアプリを通じて出会った人に恋をし、失敗を繰り返し、ようやくルドラと出会ったのだ。
ルドラと出会う前、恋に不慣れな俺たちは、互いに傷つけあい成長していった。
ルドラはとても性格がよく、こんな俺でも受け入れてくれたのだ。
充と智樹の関係
東郷が俺がハブられたあとの智樹と充の関係を教えてくれた。
智樹は俺がハブられた後も態度が変わることなく、会えば普通に話してくれた。
智樹は優しい普通の人だった。
話せばその場を和やかにさせる才能があったのだ。
だが俺は充とのことをすごく気にしており、智樹に迷惑をかけてはいけないと思い距離を置いていたのだ。
智樹と充はその後も仲良くしており、東郷も充たちとよく遊んでいたそうだ。
ある日東郷が充たちと別れた後、智樹の家に戻った際、暗闇の奥で智樹と充が抱き合っているように見えたといった。
東郷は俺がサークル仲間と疎遠になってからも影で連絡を取り合っていた。
東郷は俺がゲイだと打ち明けても、変わらず友達でいてくれたのだ。
当時東郷が智樹と充の関係を怪しんでいたのを覚えている。
しかし東郷は大学時代面白がって冗談を言うところがあったので、俺は信じていなかった。
俺がゲイだということを知り、面白がっていっているだけだと思ったのだ。
失礼だが智樹はかっこいいというタイプではなかった。
だからもし充がゲイだったとしても智樹のことを好きになることはないと思っていたのだ。
充と智樹の本当の関係
だが、東郷の話の中で一つだけ引っかかることがあった。
智樹は今、京都で有名な会社で営業をしているようだ。
智樹は地方の会社の営業にも関わらず、60万円ほどの給料をもらっているのだ。
智樹の親戚が会社を経営しており、智樹はそこで働いているのだ。
智樹は社長の親戚であるため、給料を普通の人より多くもらっているという。
聞けば智樹は就職活動を行わず、この会社に就職したようだ。
俺はそのことを一切知らなかった。
智樹は大学時代、親から20万円の仕送りをもらっていたそうだ。
智樹は金持ちだったんだ。
でも服に気を遣っているようでも、高そうな家に住んでいるようでもなかったので、俺は智樹が金持ちだなんて知らなかった。