「すみません、お忙しいところ」
「いえ、どうしたんですか?」
「少し聞きたいことがありまして」
「ええ」
「田宮さんとは大学からのご友人とお伺いしています」
「ええ、はい」
「そうですか」
「どうされたんですか?」
「いえ、大学の友人にしては頻繁に会いすぎているのではないかと考えることがありまして」
「ああ、もう充とは古い付き合いですから。充から相談を受けていたんです。神山さんのことで」
「そうですか?」
「それはどのようなご相談ですか?」
「それを言っていいのかわかりません」
「ああ、もちろん。しかし電話でお話しすればよかったのではなかったのですか?」
「実を言うと充はその頃からもう家にいるのが億劫だったと言っていました。もしかしたら神山さんを信用できなくなっていたのかもしれません」
「そうですか」
「それならどこかで時間を潰すこともできたんじゃないでしょうか」
「はい。それについては私もわかりません」
「そうですか」
向井はそのあとすぐに帰っていった。
ルドラに相談
俺はルドラに相談することにした。
俺は昔から友人が少なく、人から嫌われてしまうタイプの人間だと思っていた。
でも大学時代に人から嫌われてしまったのは、自分のせいではなかった。
俺は智樹に悪い噂を吹聴されたかもしれないのだ。
そう考えると、俺の知らないところで誰かに邪魔をされている可能性もあるのだ。
俺はそういうことをされやすい人間なのか。
そうだとしたら、もうそういうことを避けたいと思っていた。
誰かに邪魔をされるようなことにはなりたくない。
智樹はそういうことを経験して人を欺くほうになったのか。
俺は前田と太一そのほか俺のことを避けてる人の誤解を解きたかった。
前田とはもう何年も会っていない。
前田と親しかった桂という男ももう連絡を取っていないんだ。
太一も前田も桂も俺のことを誤解しているかもしれない。
そのせいで俺の大学生活はおかしくなったし、その後の人生も変わってしまったかもしれないのだ。
もしも大学時代の友達とまだ関係性があったなら俺は今違う場所にいたかもしれない。
そう思うと俺は智樹に対する怒りの感情が湧いてきたのだ。
でもルドラからは内緒にしなければいけないと言われた。
もしもみんなに言ってしまったら、東郷が迷惑を被ってしまうかもしれないと。
やっぱりそうだ。
東郷に迷惑をかけるわけにはいかない。
向井からの連絡
数ヶ月経ち、向井から連絡があった。
充と美佳子さんの離婚に関する裁判はその後、美佳子さんの劣勢のまま続いていた。
向井さんはもう出す手がなくなり困り果てていた。
こうなれば、少しでも可能性があることをしたいと思っていたのだ。
うまく行かないかもしれないが、少しでも裁判官の頭を混乱させたかったのかもしれない。
もちろんこれをやったからと言ってどうにかなるわけでもない。
しかし美佳子さん側はそれほど追い込まれていたのではないだろうか。
「以前、葛西さんがおっしゃっていた話を法廷で証言してもらえませんでしょうか?」
「法廷で?」
「ええ。法廷で田宮さんと冬本さんがそういう関係にあったのではないかということを証言していただきたいんです」
「え!」
「どうされたんですか?」
「それはできません」
「どうしてですか?そうすれば状況が変わるかもしれないんです」
「ですが、智樹と充がそれを認めなければ証明することはできないとおっしゃっていたじゃないですか?」
「それはそうかもしれませんが、できるだけのことはやりたいんです」
俺はまさか充に恋をしていたなんてことは言えなかった。
俺は充の前に顔を出すのが怖かったのだ。
それにもし法廷で証言したら東郷に迷惑がかかることになる。
でも美佳子さんを救いたいという気持ちもある。
救えるなら救いたい。
それに智樹に復讐したいという気持ちもあったのだ。
でも俺にはできない。
「すみません。私にはできません。もちろん美佳子さんを救いたいという気持ちはあるんですが」
向井は黙っていた。
信用を無くしたかもしれない。
こんなことなら裁判を見に行くなんてことしなければよかった。
「わかりました。でも考えておいて頂けませんでしょうか?」
「わかりました」
俺は正直迷っていた。
どうすれば一番いいのか。
俺がもし動き出せばどんな未来が待っているのか。
もし何もしなければどういう未来が待っているのか。
法廷に立ったら充はびっくりするだろう。
充にも迷惑をかけることになる。
でも充は美佳子さんを陥れようとしているかもしれないのだ。
そんなことは許されることではない。
それに智樹は俺を陥れ、美佳子さんを陥れ、自分だけ良い思いをしようとしている。
しかしもしも俺が証言台に立ったら充の口から智樹の耳に入ることになる。
そうするとすぐに東郷との関係も悪くなるかもしれない。
智樹と充の関係を説明するには東郷の情報を証言しなければいけないのだ。
そうなれば東郷も法廷に呼ばれるかもしれない。
東郷は智樹と充を邪魔することになるのだ。
しかし一度そうなったら、俺はみんなの誤解を解くことができるかもしれない。
もう東郷のことを気にすることなく、前田や太一との関係を修復できるかもしれない。
そうすれば未来が変わるかもしれないのだ。
でも俺を信じてくれた東郷を裏切ることになるのだ。
智樹は皆から嘘つきのレッテルを貼られ、充は他人からカミングアウトされてしまうかもしれない。
本当はそうなることが正しいことなのかもしれない。
充にとってカミングアウトは間違いなんかじゃない。
でもそれは本人が決めることなんだ。
智樹だってそうだ。
俺は智樹の会社へ行き、智樹が他の社員よりも給料を多くもらっていると言うことだってできるかもしれない。
そうすれば智樹に仕返しすることができるかもしれない。
でもそんなことをしたら、智樹は俺を恨むかもしれない。
ああ、だから俺は騙されたんだ。
結局そんなことなどできるはずもないとわかっていたから、俺は智樹に騙されてしまったのかもしれない。
それに充がどう思っているのかなんてことはわからないし。
充が本当に智樹と付き合っていたという確証もないんだ。
東郷が嘘をついている可能性だってある。
俺が持っている事実はあまりにも少なかったのだ。
俺はますますどうしたらいいかわからなかった。
本当は充に聞けばいい。
本当のことを充に聞けばいいんだ。
でもそんなことはできるはずがない。
前田や太一に智樹に嘘を吹き込まれたかどうかも問いたかった。
でも東郷に口止めされている。
一体全体俺はどうすればいいんだ。
関わらないほうがいいのか。
俺はしばらく考えることにした。
どうしたらいいかわからない。
前田や太一の反応
しばらくしてから俺は東郷に連絡をした。
もちろんわかってはいたが、確かめたいことがあったんだ。
「そういえばさ、前田と太一と会うのってどうなった?」
「ん?ああ、全然忘れてた」
「そうなんだ。やっぱり前田も太一も俺と会うのを避けてるのかな?」
「いや連絡するのを忘れてたんだ」
「そうか」
東郷の口調で前田と太一が俺と会うのを避けているんだということがわかった。
前田と太一は俺を泥棒だと思っているのだろう。
「あのさ、やっぱり俺前田と太一に聞いてみたいんだけど」
「ダメだ」
「なんで?」
「そんなことをしたら、充に感づかれてしまうかもしれないだろう」
「だよな」
東郷は語気を強めた。
俺はこれ以上突っ込むと東郷に嫌われてしまうかもしれないと悟った。
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