坂元裕二という脚本家は現代の脚本家の中でも突出した才能を持っています。
彼の代表作は「私たちの教科書」「Mother」「私たちの教科書」「それでも、生きていく」
「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「問題のあるレストラン」「カルテット」
などです。
この中からいくつか作品を抜粋して、彼のすごさを書いてきます。
目次
「私たちの教科書」のラストで神展開
「私たちの教科書」は志田未来さん演じる主人公の中学生・明日香が
転落死をして亡くなるということから話が始まります。
彼女はなぜ死んだのかという謎を担任の先生と弁護士が追うストーリーです。
ドラマの最終話まで、視聴者は明日香がイジメられていた為に、自殺をしたと思います。
物語もその方向でずっと進められていました。
しかし、最後の最後に明日香はイジメで死んだのではないということを知らされるのです。
明日香の元親友朋美(谷村美月)がイジメられているのを知った明日香が
わざとイジメを自分に向けさせて親友を救ったことを知らされます。
そして、明日香は死の当日
死のうとして教室の窓に座っていた朋美の横へ座って自殺を辞めるよう説得していたことも
朋美の証言からわかります。
自殺を思いとどまらせようと説得する為に親友の隣に座った明日香は
説得に応じた朋美が窓から離れた後、雨で濡れていた鉄槌に足を滑らし落下したのです。
この展開は誰も予想できなかった事実であり、私は坂元裕二は天才かと思いました。
そして、この坂元裕二の意表を突く展開マジックはのちにも繰り返されます。
「Mother」のラストで神展開
“ドラマ大国トルコ” でリメイク・大ヒットした日テレドラマ『Mother』が「東京ドラマアウォード」海外特別賞受賞 https://t.co/1baxOdFEsD #Mother #東京ドラマアウォード pic.twitter.com/rQT5TRIez4
— music.jp (@musicjp_mti) 2017年10月26日
芦田愛菜ちゃんを一躍大スターにしたこの「Mother」という問題作は
松雪泰子さん演じる誘拐犯の奈緒は自分を捨てた母親を恨みながら生きてきた。
そんな奈緒の母親である”うっかりさん”が逃げ続ける偽母娘を見守り続けるドラマです。
奈緒はうっかりさんが幼き頃に自分を捨てたと思っていました。
しかし物語の終盤、うっかりさんはDVをする夫から奈緒を守る為自ら夫が眠る家に火を点けて夫を殺害したということがわかります。
うっかりさんは奈緒を守る為、刑務所に入れられるのです。
このドラマのラストでは
芦田愛菜ちゃん演じるつぐみを虐待から守る為に誘拐した奈緒も同じように逮捕されるという結末になります。
そして、このドラマにおける衝撃のセリフは
「お母さん、もう一回誘拐して」でした。
このドラマは視聴率も高く、数々の賞を総なめにしました。
「それでも、生きていく」のバトル
その後に作られた「それでも、生きていく」は被害者家族と加害者家族の人間関係を描いたドラマで、大竹しのぶ演じる被害者家族の母親・響子が、加害者家族の一人一人と対峙していく物語終盤はその圧巻の演技で社会を賑わせました。
何と言っても衝撃だったのは、8話で、響子と加害者本人・健二(風間俊介)との対面時の演技です。
始めは冷静だった響子がじわりじわりと健二へ歩み寄り
殺人者のごとく形相で、怒り狂う演技はドラマ史上類を見ない、迫真の演技でした。
そして、それに対峙する風間俊介も天才的な演技を見せるのです。
この回は特に衝撃的で、放送事故なのではないかと思わせるほどの映像でした。
そのやりとりの最後、健二が響子を殺そうとします。
首を絞められながら、響子は「殺しなさい。殺せるものなら殺してみなさい。私は絶対に死なないから。あなたが死ぬまで絶対に死なないから」と言うのです。
このドラマには私の心に今でも残っている名台詞があります。
「心って、大好きな人からもらうものだと思うんです。僕は亜季(妹・健二に殺された被害者)から心をもらいました。父から心をもらいました。母から心をもらいました。人を好きになると、その人から心をもらえるんですよね。それが心なんですよね。
遠山さん、あなたからももらいました。ちゃんとあなたからもらったもの、僕、持ってます。だから、なんて言うか、復讐より大事なものがあるんじゃないかって思って」
この言葉で、心はそういうものではないかと思ったことを覚えています。
このドラマで新たな才能を見せた満島ひかりさんが、脚光を浴び、大スターの仲間入りを果たしました。
「問題のあるレストラン」の名言
真木よう子さんが、1話目にパワハラで全裸にさせられるという衝撃のシナリオから始まった「問題のあるレストラン」ではコミカルな坂元裕二ワールドが展開されました。
そのコミカル版坂元裕二でもきちんと名言が残されています。
「傘立てにね、ビニール傘が並んでるの。
最初に傘泥棒が来て、そのうちの1本を盗んでさして帰っていくの。
その後別の人が来て、傘をさして帰っていくの。
でもそれはその人の傘じゃない。
その人の傘は盗まれた後だから。
その次の人も気づかずに別の傘をさして帰る。
その次の人も、その次の人も、別の傘をさして帰る。
そして、最後の人は、もう1本も傘が残ってないの。
傘を持って来たのに、雨に濡れて家に帰るの。
2番目、3番目に来た人たちはわざとじゃないけど、でもやっぱり傘泥棒だと思う。
責任があるとは言わない。謝れとは言わない。
でも、その傘がほんとに自分のものかどう、確認すべきだったと思う。濡れて帰った人のことを想像すべきだったと思う。」
こういった長いセリフが坂元さんの特徴ですが、これを全部聞いたあと、少し心が動くところがすごいところだと思います。
このドラマでは
東出昌大さんが性格の悪い役を演じて話題となりました。
「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の名言
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— 村瀬健 (@sellarm) 2016年6月19日
有村架純さん演じるヒロインの音が北海道から東京へ逃げるようにやってくるのを助けた引越し屋さんの練との恋愛を描いた「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」では繊細な若者から出てくる数々の名言を作り出しました。
高良健吾さん演じる練の人の良さがわかる一言では
「人身事故がありましたっていうアナウンスがあって。
人身事故ってそういう事じゃないですか。
そういう時に隣に居た人が、普通の人がチッって舌打ちするのが聞こえるんです。
電車何分か遅れるから。
そういうの聞いた時、何かよく分かんないけど。何か、よく分かんない気持ちになります」
という言葉がありました。
また音ちゃんの純粋さがわかる言葉には
「好きってそういうんとはちゃうよ。
説明するんは好きっていうんとちゃうよ。」という言葉がありました。
このように坂元裕二さんは若者の繊細さを素敵な言葉で表現することにも長けています。
「カルテット」の名台詞
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「カルテット」ではまたもや満島ひかりさんとタッグを組みました。
夫が失踪したマキという女性とカルテットを組んだ売れない音楽家たちがプロを目指す様子を描いた本作では
坂元裕二さんの脚本家としての才能が溢れ出ていました。
このドラマの中で、坂元裕二さんは普段、耳にする言葉の中で決して気づかないことをセリフにして、視聴者を驚かせました。
「夫さん」は旦那さんという言葉が出てこなかった満島ひかる演じるまるまるがとっさに口にしたセリフです。
普通の脚本家であれば、決して使わない、夫さんという言葉をあえて使用するところに才能を感じてなりません。
また、誰も気づかないことに着目した点でも評価されるべきセリフとして、昼はお昼というのになんで朝と夜は「お」をつけないんですか。「お朝」とか「お夜」とか
このセリフはまさに発明レベルで讃えられるべきかと思います。
また、序盤では唐揚げにレモンをかけるかかけないかについてネチネチと議論する話がありました。
これは他の脚本家であれば、あり得ないプロットですが
坂元裕二さんはこの会話において、主人公たちがどんなキャラクターであるかを提示するということを行いました。
視聴者はこのやりとりで、すぐに主演の四人がどんな人物であるかわかったと思います。
このように坂元裕二さんは他の脚本家にはない台詞回しと展開を書くことで
他の脚本家との差別化に成功しています。
また、この手法は他の脚本家が真似しようとしても決してできない
天性の才能がなす技だと思います。
やはり、坂元裕二さんは天才なのではないでしょうか。