しばらくすると、新居に着いた。まさか小さな客がいるとは思いもしなかったが、やっぱり新居は快適だった。
(新居イメージ)
新居を見て、陸は驚いたような表情を見せた。
ティちゃんは新しい家ということで、少し不安そうな顔をしている。
「ティちゃん、新しい家だよ。すぐ慣れるからね」
ゲイブリエルは、ティちゃんのおトイレを廊下に設置してあげていた。
車は家の前に駐めた。
家の前には大きなスペースがあるため、どこに駐めてもいいだろう。
陸は家の中をしばらく散策していた。
俺たちは、荷解きをして、夕食の準備をしていた。
陸はどこかにいるものだと思っていたが、しばらく見ていないことに気づいた。
「陸くん?ご飯ができたよ。一緒に食べよう」
俺が陸くんを呼んだが、返事が返ってこない。
しばらく探したが、陸の姿はどこにもなかった。
「おーい」
警察にも連絡したし、親の顔も知っている。
もし、陸が行方不明にでもなったら大変なことになる。
俺たちは必死で陸を探した。
しばらくして、ゲイブリエルから電話があった。
家から少し離れたところにある湖に、陸がいたというのだ。
俺は慌てて、湖まで走っていった。
「陸くん、どうして一人で出ていったりしたの?」
陸を見つけると俺は怒っていた。
「え、だってこっちが楽しそうだったから」
「だからって一人で行っちゃダメでしょ」
陸は分が悪そうな顔をした。
その時俺は陸の母親が言った言葉を思い出した。
「あの子は自閉症なんです」
”自閉症”
俺は自閉症の子がどんなことをするのか知らなかったけれど、もしかするとこういう行動は自閉症だから仕方のないことなのではないかと思った。
「そうか。まあいっか」俺は何も気にしていないような顔をして、陸の手を引いて家に帰ることにした。
陸もゲイブリエルも、ティちゃんも夕食を食べた。
俺はテレビを見ている陸を見ながら、母親とのやりとりを思い出していた。
「あの子が勝手に外に出ていったんです。なぜ警察を呼ぶんですか?」
俺はいけないことをしてしまったのだろうか。母親が言っていたことが正しかったのだろうか。
母親は陸の行動に呆れていたのかもしれない。
何度怒っても勝手に外に出てしまったのだろか。
でも雨の中傘もささずに子どもが外にいるのはどうしても不自然に思えた。
「陸くん、お風呂は一人で入れるの?」
「うん、もう11才だから」
「そうか、じゃあ入ってきな」
「わかった」
陸は一人でお風呂に向かった。
しばらくして、風呂から上がると陸はビショビショのままリビングへやってきた。
「陸くん、ビショビショだよ」
「いいじゃん、拭くの面倒だよ」
「そうか」
俺は母親も毎日大変だなと思った。
でもこの細やかな非日常が俺を楽しませたことに間違いはない。
「ねえ、おじさんはどうして肌がそんなに黒いの?」
陸はゲイブリエルに向かって、歯に衣着せぬ質問した。
ゲイブリエルは答えに困っている。
「ゲイブリエルは日本人じゃないんだよ。ゲイブリエルは外国人なんだ」
「へえ、そうなの?でもすごく日本語が上手だね。僕外人と話したの初めてだよ」
陸はとても嬉しそうにゲイブリエルを見つめていた。
まるで映画スターにでも会ったかのように、目を輝かせていたのだ。
次の日の朝、俺たちは新居での朝を迎えた。
警察から連絡があり、陸の母親から被害届が出たとのことだった。
俺は陸を連れて、警察署へ向かうことにした。
しかしなぜかティちゃんの姿がない。
「ねえ、ティちゃんどこに行っちゃったのかな?」
「え、どうしたの?」
ゲイブリエルはティちゃんがいなくなったことに気づいていないようだ。
「ティちゃんがいなくなったかもしれないんだ」
「え」ゲイブリエルの顔から血の気が一気に引いた。
「もしかしたら、どこか扉が開いていたかな」
「え、まじ?やばいじゃん。まだ引っ越してきたとこだから、逃げたら帰ってこなくなるかも」
俺は最悪の事態を考え、とても怖くなった。
急いで、外に探しに行ったが、ティちゃんの姿はなかった。
「どうしよう」
俺はゲイブリエルに青ざめた顔で言ったが、「陸くんを警察署に連れて行かないといけないんじゃない」とゲイブリエルが言った。
「そうだよね。でも」
俺はティちゃんのことが心配だが、とりあえず、陸を警察署に連れいてくことにした。