【ブログ小説】ここだけは確かな場所10

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翌日俺たちは千曲市へ行くことは諦め、陸のことを警察へ相談することにした。
陸は警察へ行くことを嫌がったので、ゲイブリエルに任せて俺一人だけで警察へ向かうことにした。

「ああ、井崎さん」
「こんにちは、今日は相談がありまして、今岡陸くんがまたうちにいまして」
「ええ?どういうことですか?また誘拐ですか?」
「お巡りさん、冗談はよして下さい。陸くんがうちへやってきたんですよ、勝手に」
「勝手にって」
「勝手にです、話をややこしくしないで下さい。陸くんが一人でうちへやってきたんです。どうも親に内緒で」
「そうなんですか、それは親に連絡をしなければなりませんね」
「はい、そうなんですが、どうも陸くんはおうちへ帰りたくないようなんです」
「ほお、そうですか」
「だからどうしようかと思いまして」

「どうする?」
「はい、どうしましょうか」
「そりゃ家に連絡するでしょう」
「そうですよね。もちろんそうなんですが、ひょっとして陸くんは親御さんとあまり関係がよくないのかもれません」
「と言いますと?」
「虐待?」
「ああ、でもそれはうちでどうこうできる問題ではありませんよ。もし虐待があったとしても、二人を引き裂くことはできません。ましてやあなたが陸くんと暮らすことなど」
「いえいえいえいえ、そういうことではなく、もしもそうだとしたらどうしましょうかという相談でしたので」
「はあ、お気持ちはわかりますが、そういう問題はどうしようもありません。陸くんを引き取るなんてことはできませんよ。あなたは関わらない方がいいと思います」
「わかりました。では親御さんにご連絡をお願いします」
「はい」
「それにしても、陸くんがもしも虐待されていて、私のところへそれを知らせるために逃げてきたとしたら、それはとてもかわいそうなことではないでしょうか」
「わかりますよ。でもこの日本ではそんなことはどうしようもないことなんです。いくら彼が虐待されていようが、あなたにはどうすることもできません」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はお巡りさんが言っていることは正しいように思えた。
だが、陸の気持ちを考えると、それも間違えているように思えた。
まずは陸が本当に虐待されているのか確認しないといけない。
どうして陸はここへやってきたのか、明らかにしないと。
「井崎さん、連絡が取れました。ですが今回は井崎さんが陸くんをあちらへ届けて欲しいとのことです」
「え、どういうことですか?」
「ですから、井崎さんが陸くんを今岡さんのお宅へ届けて欲しいとのことです」
「え、なんで私が?」
「奥さんはかなりお怒りのようです。もう2度とこのようなことが無いように念を押したはずなのに、またこのようなことになったと」
「え、でも私のせいでは、ありません」
「もちろんそれはわかっているのですが、あのように言われますと」
「はあ、そうですか」
「陸くんをいつ引き渡すかは要望がありませんでしたが、できるだけ早い方がいいのではないかと思います」
「え、いつですか?」
「わかりません。なるべく早く」
「あ、すみません、今岡さんの連絡先を教えていただけないでしょうか」
「それはできません。個人情報ですし」
「個人情報って、陸くんはうちにいるんですよ。個人情報も何も」
「ですから、これは規則ですので」
「わかりました」
「また調整できたらこちらにきます」