次の朝、俺は陸を東京へ連れて行くことにした。
陸には申し訳ないが、あの親のことだ。早い方がいいに決まっている。
「陸、もう帰ろう」
「いやだ。僕はここにいるんだ」
「だめだ。たとえ君がここにいることを望むにしても、一度お母さんと話さなければいけないんだ」
「え、お母さんに話せばここにいても良いの?」
「んーもちろんだ。君のお母さんが良いって言うなら、居てもいいよ。ダメだなんて事はない」
「本当?」
今は東京に連れて行けるのであれば、嘘も方便だと思っていた。
今は陸を東京に連れていかなければならないのだ。
それが先決なのだ。
一人では心細いので、ゲイブリエルも一緒に来てもらうことにした。
俺たちは車で東京まで向かったのだ。
「ゲイブリエル、ごめんね、千曲市に行けなくて」
「いいよ、千曲市ならいつでも行けるよ」
「え、千曲市ってどこ?」
「千曲市はね、棚田で有名なんだよ。とても景色がいいんだ。長野県には他にも星が綺麗な高山村なんかもあるんだよ。俺たちは自然を味わうために引っ越したんだ」
「へえ、いいね、僕は自然でも都会でもどっちでもいいけど」
「はは、陸はまだ子どもだからどちらでもいいよね」
「ねえ、本当に僕、おじさんたちと一緒に暮らせるの?」
陸は目を輝かせていた。
「え、陸は本当におじさんたちと暮らしたいの?」
「本当だよ?」
「本当かな、すぐにお母さんが恋しくなると思うよ」
「どうだろう」
「ハハハ」
「俺は君ぐらいの時はお母さんがとても大好きだったけれどな」
陸の顔が曇った。
その顔を見て俺とゲイブリエルは顔を見合わせた。
東京には昼過ぎに着いた。
俺たちは陸に聞き、陸の家に直接行くことにした。
陸の母親を陸に呼びに行かせ、どこかで話をさせてもらおうと思っていた。
陸が家から出てきた。
「何でしょうか?」
「あの、少し話をさせていただきたいのですが」
「いいですよ。私もあなた方とお話をさせていただきたいわ」
そう言うと、母親は陸と妹を車に乗せた。
「私の車に着いてきてくださる?」
「わかりました」
俺たちは車で20分ほど走った先のショッピングモールのカフェで話をすることになった。
「あなたたち、陸をなんだと思っているのですか?陸はうちの子ですよ。こう何度も連れ出されると正直迷惑です」
「いえ、私たちは陸くんに何も言っていません。陸くんとは何も約束をしていないんですよ」
「約束していないのに、子どもが一人で長野に行きますか?私は本当に心配したんです。いろんな人に連絡してしまって本当に大変だったんですから」
「す、すみません。すぐに連絡できればよかったのですが、陸くんが着いたのが夜遅かったものです」
「そんな事は知りません。あなたたちには前にも言った通り、慰謝料を払ってもらいますからね」
「そ、そんな、勘弁してくださいよ」
「いえ、これは約束ですから」
「そ、そんな」
「ねえ、お母さん慰謝料って何?」
空ちゃんが母親に質問した。
「慰謝料はね。お金のことよ?おじさんたちが私たちに迷惑をかけたから、お金を払ってくれるの」
「え、そうなの?よかったね」
陸はずっと俯いている。
「あの、いくら払えばいいんですか?」
「そうね、50万円くらいかしら?」
「50万円?」
俺たちは驚いた。
すると、陸が母親の前にあるコーヒーを母親の服にこぼしてしまった。
「あ」
やばい、この親絶対に怒るぞと俺たちは思った。
「きゃ」