【ブログ小説】ここだけは確かな場所13

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「もう、陸ちゃん、慌てたらダメじゃない。陸ちゃんはかかってない?コーヒーが冷めててよかったわ。綺麗に拭かないと」

「だ、大丈夫ですか?」
店員がやってきた。
床はビチャビチャになっていた。
母親は陸を叱らなかった。
むしろ陸の心配をしていた。
俺たちは陸の母親が陸を叱るのだろうと思ったが、そうではなかった。
陸はなぜかがっかりしたような顔をしている。

俺たちは陸と母親の関係が悪いのだとばかり思っていた。
しかしそうではなかったため、母親へ質問する必要はないと思った。
きっと陸は反抗期で、母親に甘えているのだろうと思ったのだ。
この母親は俺たちにとっては嫌な人だが、子どもを虐待するような人ではないのではないかと思ったのだ。
そう思ったら少しホッとした。
あとは、この母親が言っている慰謝料をどうにかすればいいだろうと思った。
それにしても、この母親ならば、少し時間をおけば忘れてくれると、俺は淡い期待をしていた。
「慰謝料のことは一度持ち帰らせていただきます。では私たちはこれで」
「わかったわ。どうせ払うことになるんですから、早めに用意しておいてちょうだいね。では」
憎たらしいことを言う親だと思ったが、俺たちの印象はだいぶ変わっていた。
俺たちは会計を済ませ、帰ることにした。
「あ、すみません。連絡先を教えて頂けますか?」
ゲイブリエルが母親に聞いていた。
「ええ、もちろん、お金のこともありますしね」
そう言うと母親は俺たちの電話番号を登録していた。
「ではこちらに掛けて頂けますか?」
「ええ」
母親はゲイブリエルの電話番号に電話をした。
「それでは」
「はい」
俺たちは家に帰ることにした。
俺は車に乗りエンジンをかけた。
「それにしても、あの親、そんなに悪い人じゃないみたいだね。普通コーヒーをこぼされたら普通怒るんじゃないかな?」
「ああ、そうだね」
「陸を虐待している母親には見えなかった。」
「そうだね」

「陸!これどうしてくれるの?この服本当に気に入ってるのよ?シミになったらどうするの?」
母親は車に乗るなり、陸を叱り始めた。
「ほんっとうにどうしてくれるのよ。ああ、ほんっと今日は全部やる気を失ったわ!お母さん事故を起こしたらどうしてくれるの?」
陸は耳を塞ぎたいと言わんばかりに嫌そうな顔をしている。
母親はずっと陸に罵声を浴びせている。
空はいつものことだという感じで助手席に座りなが、音楽を聴いているのだ。
陸は後ろの座席に置いてある、母親のスマホに手を伸ばした。
母親は車を運転しているため、陸が後ろで何をしているか見ていない。
「ねえ、陸聞いてるの。あんた帰ったらこのシミ取りなさいよ?取れるかどうかわからないけど、取れるまでやってもらうからね!」
陸は母親のスマホを起動させ、ゲイブリエルの電話番号に電話した。

「あれ、今岡さんから電話だ」
「はい、もしもし」
母親はずっと怒鳴っているため、ゲイブリエルの声には気づかなかった。
「ねえ、陸!このシミは取れないと思うけど、あんたが寝ずに取りなさいよ?いい?これが取れるまで、ご飯を食べさせないから!」
「ん?なんだこれは」
ゲイブリエルは、スピーカーモードにして、俺に音が聞こえるようにした。
「ねえ、空ちゃん今日は何を食べたい?お兄ちゃんはご飯たべれないから、二人で美味しいもの食べましょうね?」
「ん?どういうことだろう。陸はご飯を食べれないのか?」
「わからない」
「もうほんっと頭に来るわ。陸のせいでこの服にシミが残ったらどうしてくれるのかしら」
俺は車を道の脇に止めた。
「これ陸の母親の声だよね?」
「シー」
ゲイブリエルは話さないようにと、口に手を当てた。
「ちょっと陸聞いてるの?なんとか言いなさいよ。これがどういうことなのかわかってるの?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃ済まないの!コーヒーなのよ!これ絶対に落ちないわよ。あんたほんっとどういう事してくれたのよ!これがどんなに大変なことかわかってるの?ああ、ほんっと頭に来るわ」
そのあとも陸の母親は陸を叱り続けた。
俺たちはもう聞いてられなくなり、電話を切ってしまった。
「ねえ、これってやっぱり」
「ああ、あの親は陸を虐待しているのかもしれないな」
「そうだね」
俺たちは急いで長野へ帰ることにした。