陸を家に招き、どうしてここへやってきたのか聞くと、ひどい話が返ってきた。
陸の母親と妹は陸を置いて、旅行に行ったというのだ。
おそらくゴールデンウィーク中は帰ってこないと言っている。
なんという母親だと思った。
「そうか」
「うん、でも僕はここへ来られる方が良かったんだ。お母さん、最後におじさんたちに会った後僕が家出しないようマークしてたんだ」
陸は不満そうに話した。
母親は陸が家出しないようマークしていたのに、どうしてゴールデンウィークの旅行には連れていかたかったのだろうか。
よぼど陸を旅行に連れて行きたくない何かがあったのだろうか。
俺は気になったが、あまり深く考えないようにした。
「そうか、じゃあ陸はゴールデンウィーク中ここへいられるんだね」
「うん。もしお母さんが帰ってきたら、おじさんのところへ連絡がくるんじゃないかな」
「ああ、そうかもしれないね」
俺はまた面倒なことになりかねないと思ったが、もう陸を守る方が先決だとこの頃は考えるようになっていた。
俺は陸をせきさんのところへ連れて行った。
「あら、あなたが陸くんね」
「ねえ、おじさんここは?」
陸は児童養護施設を見渡していた。
「ここは陸くんを守ってくれる場所だよ?」
「守る?」
陸は悲しそうな顔をした。
自分は守られなければならないような子どもなのかと言われたような気がして、心が痛んだのかもしれない。
「いや、おじさんの知り合いのせきさんなんだ。せきさんに陸を紹介したくてさ」
陸の顔が元に戻った。
「そうなんだ」
陸はせきさんの優しい笑顔を見ると、とても落ち着いたように見えた。
「陸くん、こちらへおいで」
せきさんは陸にジュースをご馳走してくれた。
陸が施設の子どもと遊んでいる間に、俺はせきさんに事情を説明した。
「そうですか、でもかえって良かったかもしれませんね。これは育児放棄として、証拠になるかもしれません。もし親と親権を争う時の材料になるかもしれません」
「親権を争う?」
「ええ」
「わ、私はそこまで」
「でももしも陸くんが虐待されているとしたら、早いうちに親からは離す方がいいと思います」
「子どもによっては親を庇って、虐待を隠す子もいますが、陸くんは誰かに気づいて欲しいと思っています。でなければゲイブリエルさんに電話をして、母親の本性を知らせるなんてことはしないはずです」
「やっぱり、せきさんも陸が電話をしたと思いますか」
「そうだと思います。ケータイ電話の誤作動だったとしても、話は同じです。陸くんはまたここへやってきて、事情を話してくれたんです。もし誰にも気づかれたくないと思っているのであれば、そんなことはしません」
「そうですか」
「早い段階で親と引き離すことが、彼の今後の人生にも関わってくる話だと思いますよ」
「はい・・・。」
俺はとても大きなことに首を突っ込んでしまいそうな気がしていた。
ゲイブリエルも一緒に陸たちと遊んでいた。
「あのせきさん、私たちが陸を連れてどこかに旅行に行くことはできませんか?」
「旅行ですか?」
「ええ、高山村に連れて行きたいと思っているんです。陸が母親に旅行に連れて行ってもらえなかったのだとしたら、私たちが、陸をどこか素敵な場所に連れて行ってあげて、思い出を作ってあげたいんです」
「そうですか、それはとてもいいことだと思います」
「陸にはこっちにきた方が良かったって思ってもらいたいんです」
「そうですか。わかりました。では、私はそのことを誰にも言いませんわ」
「本当ですか?」
「ええ、警察には私から話しておきます」
せきさんは笑顔でそう言ってくれた。
俺とゲイブリエルは陸を連れて高山村に行くことにした。